岩崎建築研究室・日誌II

京都・下鴨の設計事務所。茶室のリフォームや新築をメインに、和風住宅や和菓子舗、日本料理店、和風旅館、古民家改修などの設計監理を行なっています。

 

近所の石垣に菫が咲いているのを見つけた。一説によれば「すみれ」の語源は「墨入れ」。菫の花の蜜だまり(唇弁の距)の形状が、大工道具の墨壺(墨入)の墨池の部分に似ていることから、らしい。そう言われてみれば似ているかも。菫は万葉集にも歌われ、日本人が古くから親しんできた花。「春の野にすみれ摘みにと来た我ぞ野をなつかしみ一夜寝にける」。

夏目漱石の俳句「菫ほどな小さき人に生まれたし」も有名。熊本時代の句なので「草枕」の世界とつなげ、面倒な人の世を離れてひっそりと菫のように生きたいという気持ちと解釈されることが多いようですが、作品「文鳥」の中では文鳥が餌を啄む様子を「菫ほどの小さな人が黄金の槌で瑪瑙の碁石でもつづけ様に敲いているような気がする」とあり、詩人の清水哲男は「人として生まれ、しかし人々の作る仕組みには入らず、ただ自分の好きな美的な行為に熱中していればよい。そんな風な人が、漱石の理想として「菫ほどの小さき人」であったのだろう」と評している。